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東京地方裁判所 平成10年(ワ)3292号 判決 1999年12月15日

原告

上原すゞ子

右訴訟代理人弁護士

斎藤一好

齊藤誠

中由規子

被告

豊島区

右代表者区長

高野之夫

右指定代理人

山口憲行

岩田実

森岡清和

大峽正教

"

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

一  〔略〕

二  〔証拠略〕によれば、本件の経緯等について、以下の各事実を認めることができる。

1  本件土地は、原告土地のほぼ真南に位置し、みなし道路である本件区道を挟んでいる。また、本件土地の東側にはみなし道路である本件私道がある。さらに、本件私道は、本件土地の北側境界線を東側に延長したところまで存し、その北側を本件区道と接し、そこに一辺四メートルの正方形の交差点が形成され、その交差点の上方中央から下辺南東端(本件私道北東端)にかけ斜めに交差点を切り取るように幅員三九・九九〇メートルの本件都道が約四メートルにわたり本件区道に接している。その位置関係等は別紙図面のとおりである。

2  葛山は、本件土地上に本件建物を建築することを計画し、ヰゲタハイムに設計を依頼した。ヰゲタハイム担当者は、平成六年二月ころ、本件都道を本件土地の前面道路と扱うことができるかどうかの相談に被告建築部建築課を訪れた。

3  右相談を受けた同課建築審査係長の上野賢一(以下「上野」という。)は、これを田村に報告した。上野と田村は、地図を確認するなどした上で、一週間後に本件土地の現地調査をしたが、結論を出すことができなかったので、さらに、田村は、調査・検討した結果、本件建物の前面道路を一本の幅員四メートルのみなし道路とし、道路が施行令一三四条一項にいう「その他これらに類するもの」に当たると解し、みなし道路と本件都道との接する長さが四メートル程度あることから、本件建物の前面道路の反対側に本件都道がある場合に当たると判断し、本件都道の反対側の境界線を前面道路の反対側の境界線とみなし、本件建物が道路斜線制限を受けるものではないとの結論に達したので、上野を通じて、同年七月中旬ころ、相談者に対してその旨回答した。

4  葛山は、平成七年一月一〇日、田村に対し、本件確認申請をした。なお、本件確認申請書の第三面【5.道路】【イ.幅員】欄には「39.990m」との記載が、【ロ.敷地と接している部分の長さ】欄には「4.000m」との記載があった。これに対し、田村は、同年二月二二日、前記施行令一三四条一項の適用を前提に本件確認処分をした。

5  原告は、同年三月初旬、本件土地が本件都道に接しているという前提で本件確認処分がされたと考え、田村に対して抗議したが、田村は、本件土地が本件都道に接していないとした上で、本件建物については前面道路の幅員が四メートルであることを前提に施行令一三四条一項により道路斜線制限を緩和したものであるから、本件確認処分に違法はない旨述べた。

6  そして、田村は、葛山に対して、法一二条三項に基づく報告書の形式で、本件確認申請書の訂正を指導し、同月一三日、右申請書の第三面【5.道路】【イ.幅員】欄の「39.990m」との記載を「4.000m」に、【ロ.敷地と接している部分の長さ】欄の「4.000m」との記載を「27.070m」に訂正させ、さらに、同年四月三日、本件確認申請書の第三面【6.敷地面積】【ハ.建築基準法第52条第1項の規定による建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合】欄の「400%」との記載を「240%」に、【2.都市計画区域の内外の別】欄の「都市計画区域外」との記載を「都市計画区域内」に、第四面【6.屋根】欄のシート防水歩行用」との記載をシート防水非歩行用」に、【11.高さ】【イ.最高の高さ】欄の「17.720m」との記載を「17.951m」に、【ロ.最高の軒の高さ】欄の「17.120m」との記載を「17.351m」に訂正させた。

7  葛山は、田村の指導による二回の訂正を済ませた後、本件建物の建築工事を開始したので、原告は、本件確認処分の当否を争うため、建築確認処分取消訴訟を提起するなどの法的措置を講じ、田村に対し、文書を送付するなどして本件建物の建築を防止する措置をとることを要求したが、田村は、右要求に沿うことはなかった。

8  葛山は、平成八年三月二一日、田村に対して、本件建物建築工事を完了した旨の工事完了届を提出したので、田村は、同月二六日、葛山に対し、検査済証を交付した。

三1  そこで、本件確認処分が法に違反するものであるかどうかについて判断する。

(一)  〔略〕

(二)  次に、本件建物の前面道路の本数について、田村は、本件私道及び本件区道がいずれもみなし道路であり、本件建物の前面道路としては一本のみなし道路があるものと考えて、施行令一三四条一項を適用したが、本件建物の北側前面には本件区道が、本件建物の東側前面には本件私道があることは明らかである上、右各道路は、その所有関係が異なり、現況幅員も異なる道路であるから、これを一本の道路が直角に曲がっていると解するのは不自然であり、本件建物の前面道路は、本件区道と本件私道の二本の道路であると解すべきである。

(三)  そこで、原告は、施行令一三四条の「その他これらに類するもの」に道路が含まれないと主張するので検討する。

法五六条の道路斜線制限の規定は、道路幅員の広狭に応じて建築物の各部分の高さを制限することにより、市街地における重要な解放空間である道路の天空を確保し、日照、採光、通風等の道路環境を保護することを目的とするものであり、施行令一三四条が建築物の前面道路の反対側に「公園、広場、水面その他これらに類するもの」が存在する場合、その幅員を加えて道路幅員とみなす旨の道路斜線制限の緩和規定を設けた趣旨は、「公園、広場、水面その他これらに類するもの」の上空は開放されており、それらの施設の周囲から前面道路上に日照、採光、通風等を得ることができ、道路環境を保護することができると考えたからであるところ、道路自体も公園、広場、水面に類する典型的な解放空間であるといえるから、道路は同条の「その他これらに類するもの」に含まれると解するのが相当である。したがって、原告の右主張は採用できない。

(四)  さらに、原告は、本件都道は、前面道路である本件区道と本件私道の延長上の反対側にあり、前面道路の反対側にないと主張するので検討する。

施行令一三四条は前面道路と公園等との位置関係については単に反対側にあることを規定するにすぎず、前面道路とその反対側にある公園等とがどの程度接することが必要であるかについて何ら規定していないので、その位置関係は、建物の各部分の高さ制限を緩和しても、公園等の周囲から建物の前面道路上に日光、採光、通風等を得ることができ、同道路の環境を保護することができるような位置関係にあり、かつ、反対側という用語の通常の意味に反しないと評することができる状況にあることであると解するのが相当である。これを本件についてみるに、前記二1において認定した事実によれば、本件建物の前面道路である本件私道及び本件区道は、本件土地の北側境界線を東側に延長したところで接し、そこに一辺四メートルの正方形の交差点を形成し、本件都道がその交差点の上方中央から下辺南東端(本件私道北東端)にかけ斜めに交差点を切り取るように約四メートルにわたって本件区道に接し、別紙図面のとおりの状況にあるので、本件建物の各部分の高さ制限を緩和しても、本件都道の周囲から本件建物の前面道路である本件区道及び本件私道上に日光、採光、通風等を得ることができ、同道路の環境を保護することができることが認められ、かつ、本件都道が本件建物の前面道路である本件区道及び本件私道の反計側にあるといっても用語の通常の意味に反しないと評することができる。したがって、原告の右主張は採用できない。

(五)  そこで、本件確認処分と施行令一三四条の適否について判断するに、前述のとおり、本件建物には本件区道と本件私道の前面道路が二本あり、かつ、その反対側に「その他これらに類するもの」に該当する本件都道があり、本件土地は、別紙図面のとおり、すべての範囲において、本件都道がある前面道路の境界線からの水平距離(最長で約一七・五〇〇メートル)が本件都道の反対側の境界線から当該前面道路の境界線までの水平距離(三九・九九〇メートル超)の二倍以内で、かつ、三五メートル以内の区域に属するから、施行令一三四条二項の適用があるというべきである。

(六)  そして、本件土地の属する地域は、近隣商業地域及び延べ面積の敷地面積に対する割合が一〇分の四〇の地域であることは当事者間に争いがないところ、その地域における法五六条一項一号及び別表第三による道路斜線制限規定の適用は、前面道路の反対側の境界線からの水平距離が二〇メートルまでの区域に限られるが、右のとおり施行令一三四条二項の適用を受けるので、本件土地はすべての範囲において、二本の前面道路の反対側の境界線からの水平距離が二〇メートルをこえているから、法五六条一項一号の適用がなく、道路斜線制限を受けないこととなる。したがって、本件確認処分には違法はないというべきである。

もっとも、前記認定によれば、田付は施行令一三四条一項を適用しており、この点は誤りであったといわざるを得ないが、本件確認処分は、右のとおり同条二項の適用により適法なものであるから、田村の右判断の誤りがこの結論を左右するものではない。

2  次に、田村が、法一二条三項に基づく報告書によって、敷地と接する道路幅員及び接している部分の長さ等を訂正させたことが法に違反するか否かについて判断する。

法一二条三項の規定は、建築確認処分の内容と異なる施工状況が形成されようとしている場合において、建築主事等に報告要求権限を付与し、改めて建築確認申請をやり直させることなく、報告をさせることにより、報告の内容に違法な点が認められず、しかも、確認処分との同一性を害しない範囲内であれば、報告後の内容を確認内容の変更として処理することを認めたものであって、これによって当初の確認処分はその内容の一部が変更されたものとして、その効力が維持されると解されるところ、<1>法一二条三項の報告については特段様式が定まっておらず、報告書の提出と受理というのが一般的方法であること(証人田村、弁論の全趣旨)、<2>建築確認申請書や添付図面の誤記についても法一二条三項の報告書の形式で訂正させるというのが実務上の取扱いであること(証人田村)、<3>右実務上の取扱いが特段法一二条三項の規定の趣旨に反するとは解されないこと、<4>前記二6において認定した田村が葛山に訂正させた内容は、いずれも右誤記というべきものであること、<5>前記三1に説示したとおり、本件確認処分は違法ではないことを併せ考えると、田村の右行為は違法ではないというべきである。

3  〔略〕

4  そうすると、原告の国賠法一条一項に基づく損害賠償請求は、原告の違法の主張が認められないので、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

5  〔略〕

四  よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 都築弘 裁判官 土田昭彦 伊藤清隆)

物件目録〔略〕

別紙〔略〕

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